こんな方におすすめ
- 夜間の地震や火災を想定し、家族の安全を確保したい人
- 日常生活の延長で“防災文化”を家庭に取り入れたい人
- 小さな子どもや高齢者のいる家庭で、避難の安全性を高めたい人
災害が起きたとき、私たちがまず思い浮かべるのは「避難経路」や「非常食」ではないでしょうか。ところが、命を守る上で“最も軽視されがち”なのが足元の備えです。
大地震や火災、豪雨災害などの直後、家の中は想像以上に危険な状態になります。割れたガラス、散乱した食器、倒れた家具や電化製品の破片が床一面に広がり、素足での移動は命に関わるケガを引き起こす恐れがあります。
特に深夜の地震などでは、停電によって真っ暗な中を動くことになります。裸足やスリッパでは一歩踏み出すことさえ困難です。実際、災害時の負傷原因の上位に「足のケガ」があり、その多くが「室内で発生」していることが報告されています。
そんな中、近年注目されているのが「避難靴」という考え方。つまり、家の中でも靴を履いて避難する“文化”を育てることです。
なぜ家の中で靴が必要なのか?
地震直後や停電時、最も多い負傷は「足の裏や甲の切り傷・打撲」です。特に阪神・淡路大震災や熊本地震では、室内で破片を踏んで歩けなくなり、避難が遅れて命を落とした事例も少なくありません。
つまり、靴の有無が“生死を分ける要因”になるのです。
私たちは普段、家では靴を脱ぐ文化を持っています。そのため「室内で靴を履くなんて不自然」と感じる人も多いでしょう。けれど、災害直後の家はすでに“安全な室内”ではありません。家具が倒れ、ガラスが飛び散り、断水や停電で混乱する中では、普段の常識が通用しない空間になります。
また、家族構成によっても靴の重要性は変わります。たとえば高齢者や子どもは足裏の感覚が鈍かったり、足をしっかり持ち上げて歩けなかったりするため、破片を踏み抜くリスクが高いです。家庭内で一番最初にケガをして動けなくなるのも、実はこの層が多いのです。
そのため、防災専門家の多くは「避難開始前にまず靴を履く」ことを推奨しています。ベッドの横に靴を置く、スリッパの代わりに丈夫な防災靴を常備する――。これだけで避難の初動スピードと安全性は格段に上がります。
理想的な“避難靴”の条件とは?
避難靴と聞くと、特別な防災用品を想像するかもしれませんが、実際は普段履いているスニーカーで十分です。大切なのは「即座に履けるか」「ケガを防げるか」という実用性です。理想の避難靴には次の3つの条件があります。
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つま先と底が硬い素材で、破片から足を守れること
災害時にはガラスや陶器が床一面に散らばります。柔らかいスリッパでは防げず、足裏や甲を切ってしまいます。安全靴や厚底スニーカーなら、破片を踏み抜いてもケガのリスクを大幅に減らせます。 -
脱ぎ履きが簡単で、すぐに行動できること
紐靴タイプは避難時に手間取る可能性があります。ゴムバンド式やマジックテープ式など、ワンタッチで履けるものが理想です。夜間の緊急時でも、5秒以内に履ける設計が望ましいです。 -
滑りにくく、軽くて歩きやすいこと
避難経路は濡れていたり、瓦礫が散乱していたりします。ソールが滑りにくい素材で、かつ軽量であることが、長距離避難の際に命を守ります。
さらに、家のどこに置くかも重要です。玄関ではなく、寝室やトイレ、リビングなど“その場避難”が発生する場所に置くのがベストです。就寝中はベッドの下に靴を入れておくと、倒れた家具から守りつつすぐ履けるという利点があります。
もし複数人家族であれば、各自の靴を色分けしておくと、停電時でも誰の靴かすぐ分かります。こうした**「見える備え」**が、パニック時の混乱を最小限に抑えるのです。
“避難靴文化”を家庭に根づかせるには
日本では「家の中で靴を履く=マナー違反」という意識が強く、避難靴を準備していても実際に履くことに抵抗を感じる人が多いのが現実です。
そのため、避難靴を定着させるには“文化としての再教育”が必要です。
まずは家庭内で「避難時には靴を履く」という共通ルールを作りましょう。家族全員が意識を共有することで、緊急時に自然と体が動くようになります。防災訓練のときには、「非常食の確認」だけでなく「靴を履く練習」も加えると良いです。子どもにとっては遊びの延長でできる学びになります。
また、最近はデザイン性に優れた防災スリッポンや、抗菌・防臭加工の軽量シューズなども販売されています。玄関やリビングに置いても違和感のないおしゃれなデザインが増えており、インテリアの一部として自然に取り入れることが可能です。
さらに、自治体や学校でも「避難靴教育」を導入する動きが始まっています。特に高齢者施設や幼稚園では、室内用防災シューズの導入が進んでおり、災害時に転倒や足のケガを防ぐ成果が報告されています。
つまり、“避難靴文化”は一部の防災マニアのものではなく、すべての家庭が取り入れるべき生活習慣の一つなのです。
🧭まとめ
「靴」は単なるファッションアイテムでも履物でもなく、災害時には命を守る最前線の防具になります。
どんなに非常食や懐中電灯を揃えていても、ケガをして歩けなくなれば意味がありません。避難靴を用意することは、自分と家族の命を守る「最初の一歩」です。
防災は特別な準備ではなく、日常に溶け込ませることが大切。毎晩寝る前に「スマホ」と「避難靴」をセットで確認する。
この小さな習慣が、もしものときに“生きる確率”を大きく高めてくれます。