こんな方におすすめ
- 防災グッズを一通り揃えて、少し安心してしまっている人
- キャンプやアウトドア経験があり、防災にも流用できると考えている人
- 防災リュックは作ったが、中身をほとんど見直していない人
防災グッズは年々進化し、手軽に揃えられる時代になりました。ネットや量販店に行けば、「これさえあれば安心」と思わせるセット商品が数多く並んでいます。しかし、実際の災害現場では、その多くが使われずに残っているのが現実です。理由は単純で、「使えるかどうか」と「持っているかどうか」はまったく別だからです。
防災で最も危険なのは、準備不足そのものよりも、「準備したつもり」になってしまうことです。防災グッズを揃えた安心感が、想定や判断を止めてしまうケースは少なくありません。特にキャンプやアウトドアの経験がある人ほど、防災を“延長線”で考えてしまい、思わぬ落とし穴にはまることがあります。
本記事では、実際の災害で役立たなかった防災グッズの共通点や、「準備した気になる防災」がなぜ危険なのか、そしてキャンプと防災を混同すると失敗する理由について整理していきます。防災を「装備の話」で終わらせず、「判断と想定」の視点から見直したい人に向けた内容です。
目次
実際の災害で「役に立たなかった防災グッズ」の共通点
災害後の避難所や被災現場を見ていると、使われずに放置されている防災グッズには明確な共通点があります。それは「平常時の発想で選ばれている」という点です。多くの防災グッズは、冷静な状態で、明るい場所で、十分な体力と判断力があることを前提に設計されています。しかし実際の災害では、停電している、寒い、暑い、眠れていない、情報が錯綜しているといった状況が同時に発生します。その状態で「説明書を読まないと使えない」「組み立てが必要」「細かい操作が必要」な物は、ほぼ確実に使われません。
また「多機能」を売りにしているグッズほど、実際には敬遠されがちです。機能が多いということは、操作が複雑で、覚えることが多く、誤操作のリスクも高いということを意味します。災害時に求められるのは高性能さではなく、直感的に使えるかどうかです。さらに「あったら便利」という曖昧な基準で選ばれた物も、優先順位が下がりがちです。災害時は、命・移動・水・トイレといった最低限の行動に意識が集中するため、それ以外の用途の物は心理的にも使う余裕がありません。
つまり、役に立たなかった防災グッズの多くは、モノ自体が悪いのではなく、使われる環境を想定していないことが原因です。「正常な判断力が残っている状態」でしか使えない物は、防災グッズとしては不適格だと言えるでしょう。
「準備した気になる防災」が一番危険な理由
防災において最も危険なのは、何も準備していないことではありません。「準備したつもり」になってしまうことです。防災グッズを一式揃えると、人は無意識のうちに安心感を得ます。この安心感そのものが問題なのです。安心すると、人は想定を止めます。「これがあれば大丈夫」という思考は、状況判断や撤退判断を鈍らせます。
実際の災害では、準備した通りに物事が進むことはほぼありません。想定外の揺れ、想定外の時間帯、想定外の場所で被災するのが現実です。その中で「防災グッズがあるから何とかなる」と考えてしまうと、本来は早めに避難すべき状況でも留まってしまうケースがあります。これは心理学的に言えば「正常性バイアス」と呼ばれる現象で、防災意識が高い人ほど陥りやすい皮肉な落とし穴です。
さらに、防災グッズに頼る意識が強いほど、「行動の訓練」や「判断のシミュレーション」が後回しになります。しかし災害時に最初に壊れるのは、道具ではなく人の判断力です。疲労、恐怖、不安が重なると、簡単な判断すらできなくなります。だからこそ、防災において本当に重要なのは「何を持つか」ではなく、「どう動くか」「いつ諦めるか」「どこまで無理をしないか」という判断基準なのです。準備した気になって思考を止めた瞬間、防災は失敗に近づきます。
キャンプと防災を混同すると失敗する理由
キャンプと防災は、一見すると似ているように見えます。屋外で過ごす、火を使う、簡易的な生活をするという点だけを見れば、共通点は多いでしょう。しかし、この二つの本質は真逆です。キャンプは「余裕がある状態で不便を楽しむ行為」です。一方、防災は「余裕がない状態で最低限を確保する行為」です。
キャンプでは、天候や体調が悪ければ中止できますし、失敗しても帰宅できます。撤退の判断も自己責任で行えます。しかし災害時は、撤退先そのものが存在しない場合もあります。情報も不足し、周囲の人間の行動に引きずられることも多くなります。つまり、防災は「計画が崩れる前提」で考えなければなりません。
この違いを理解せずにキャンプ道具をそのまま防災に転用すると、失敗が起きます。キャンプギアは快適性を重視するため、設営や準備に時間がかかる物が多く、体力や集中力を消耗します。防災では、その時間と体力こそが最も貴重な資源です。キャンプと防災を混同すると、「使えるはずの装備」が「使う余裕のない荷物」に変わってしまうのです。
「防災に向かないキャンプギア」の特徴
防災に向かないキャンプギアには、いくつかの明確な特徴があります。まず一つ目は「準備工程が多い」ことです。組み立て、設営、調整といった工程が必要な物は、災害時には大きな負担になります。暗闇や悪天候の中で正確な作業を行うのは、想像以上に難しいものです。
二つ目は「壊れやすさ」です。キャンプギアは軽量化やコンパクト性を重視するため、繊細な構造の物が多くなります。防災では、雑に扱っても動く、多少壊れても代替できることが重要です。三つ目は「単体では成立しない」ことです。特定のパーツや専用燃料がないと使えない物は、供給が止まった瞬間に無力になります。
アウトドア好きほど「良い道具を持っている」という自信がありますが、防災ではその自信が裏目に出ることがあります。防災向きなのは、高価なギアではなく、誰でも使えて、壊れても致命傷にならない道具です。キャンプギアを防災に使う場合は、「快適かどうか」ではなく、「雑に扱っても機能するか」という視点で見直す必要があります。
本当に備えるべきなのは「物」より「想定」
防災で最優先すべきなのは、防災グッズを揃えることではありません。「どんな状況で被災する可能性が高いか」を具体的に想定することです。自宅なのか、職場なのか、移動中なのか。昼なのか、夜なのか。家族と一緒なのか、一人なのか。この想定によって、必要な備えは大きく変わります。
多くの人は「とりあえず防災リュックを用意する」ことで安心しますが、その中身が自分の生活圏や行動パターンに合っていないケースは少なくありません。防災グッズは、想定の結果として選ばれるべきものであり、先に物を揃えると必ずズレが生じます。
また、防災では「何を諦めるか」を決めておくことも重要です。すべてを守ろうとすると、動けなくなります。水、移動、情報、この中でどれを最優先するのかを決めておくだけでも、判断の速度は大きく変わります。防災とは、完璧な準備を目指すことではなく、不完全な状況でも動ける状態を作ることです。物よりも想定を備えることこそが、本当の防災と言えるでしょう。